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もしかしたら訴えられる?美容業界の残業代について

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もしかしたら訴えられる?美容業界の残業代について

最近は「ブラック企業」という言葉が一般的になりました。「ブラック企業」とは過酷な勤務形態や違法な労働条件で従業者を働かせる企業のことを指します。かつては「仕方ない」で済まされたことでも、現在では労働基準監督署も厳しく目を光らせるようになってきましたし、SNS等のネットで叩かれます。美容業界でも「ブラック企業」は当たり前では済まされません。

今回は特に「残業」にテーマを絞って解説したいと思います。

1.残業とは

1.1 所定・法定労働時間

・残業には2種類ある

そもそも残業とは何でしょうか?一般的なイメージとしては、本来の退社時間を過ぎて遅くまで働くことですが、実はこれには社内ルール上の残業と労基法上の意味の「残業」があります。

・所定労働時間

まず、比較的わかりやすい「社内ルール上の残業」について。これは会社のルールによって、「何時以降の勤務は残業だよ」と規定されている場合の残業です。もう少し正確に言うと、「所定労働時間」を超える時間外勤務です。

例えば、勤務時間が午前9時から午後5時までの企業で、午後5時を過ぎると「残業」になる、これが「社内ルール上の残業」です。つまり、社内ルールで定められた勤務時間が「所定労働時間」です。ここで、社内ルールとは、就業規則や雇用契約書のことです。なお、「社内ルール」だから勝手に決めて良いという意味ではありません。「社内ルール」は労働基準法に違反してはいけません。

労働基準法で定められた勤務時間が「法定労働時間」であり、「所定労働時間」は「法定労働時間」の条件内のものでないといけません。

・法定労働時間

法定労働時間は労働基準法で定められた勤務時間です。原則として「1週間で40時間、18時間」が法定労働時間です。ただ、実際にはもう少しややこしい問題があります。

例えば、勤務時間が午前9時から午後5時までの企業の例で言うと、9時から17時までなので1798時間かと言うと、これは違います。労働基準法上「労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分」の休憩時間が必要です。ここで、休憩時間は労働時間の計算には含まれないので、勤務時間が午前9時から午後5時までの企業での1日当たりの所定労働時間は

8時間-休憩時間

となります。

例えば、12時から13時までが休憩時間だとすると、所定労働時間は

8時間-1時間(休憩時間)

つまり、7時間になります。

・所定労働時間とか法定労働時間の違い~残業代とは

さて、「所定労働時間とか法定労働時間とか、そんな細かいことはいいよ」と思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、今回のテーマである残業代についてみると、この違いは結構重要です。実は労働基準法上、残業(時間外労働)には25%の割増金が必要です。この結果、残業代は

時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.25

という計算式になりますが、ここでいう時間外労働とは「法定」労働時間に対する時間外労働です。

従って、勤務時間が午前9時から午後5時までで、12時から13時までが休憩時間の企業で、18時まで勤務したとすると、実際に働いている時間は8時間になりますから法定労働時間内になります。従って、割増は原則不要です。つまり、この場合の残業代は「1時間あたりの賃金」だけになります。

この企業で20時まで勤務したとすると、実際に働いている時間は10時間になりますから、最初の1時間は上記のように法定労働時間内になり、「1時間あたりの賃金」だけ

残りの2時間は法定労働時間を超えた残業となり、2時間×「1時間あたりの賃金」×1.25

となるわけです。

なお、社内ルールで、「所定労働時間を超えた場合は割増金を支払う」という規定を設けることはもちろん構いません。その場合は単純に

3時間×「1時間あたりの賃金」×1.25

が残業代になります。

この点はトラブルのもとにもなるので、就業規則等の社内ルールで、「所定労働時間を超えた場合は割増金を支払う」か「法定労働時間を超えた場合は割増金を支払う」か

の違いには、十分な注意が必要ですし、雇用主としては、「法定労働時間を超えた場合は割増金を支払う」と明記しておいた方が無難です。

「所定労働時間」と「法定労働時間」は1文字違いですが、混同しないように注意しましょう。

1.2 残業代が発生する例

ところで、ここまでは単純に時間外労働であれば残業代と言ってきました。しかし、これもそれほど単純なものではありません。

まず、「管理監督者」には残業代が発生しません。いわゆる管理職ですが、これはチェーン店の店長のような場合、「管理監督者」に当たるのか否かが微妙な問題になります。いわゆる「名ばかり管理職」のケースです。また、「管理監督者」であっても、深夜労働(22:005:00)には残業代が発生します。

それ以外の普通の従業者の場合でも、固定残業代の場合、残業代が出ないこともあります。

例えば、営業マンの場合、外回りの時間が長かったり直帰したりして、実際の労働時間が判断しづらい場合があります。この場合、初めから給料に残業代を含めておくのが固定残業代(みなし残業代)です。

もっとも、固定残業代の場合でも、法定労働時間を超えて働いている場合はあるでしょう。その場合は残業代が発生します。美容業界の場合、問題となるのは、お客さんの来ていない時間の扱いと閉店後の仕事です。

まず、お客さんの来ていない時間は休憩時間かと言えば、もちろん、そのようなことはありません。その間、従業者はお客さんを待って店内で待機しており、休憩時間にはなりません。また、閉店後の仕事のうち、顧客管理のための作業、掃除や後片付けは勤務時間に含まれますので、所定労働時間を超えれば残業代が発生します。

カット練習については次項で説明します。なお、美容業界に特徴的な面貸し(ミラーレンタル)の場合、基本的にフリーランス美容師とサロンオーナーは雇用関係ではなく、個人事業主とサロンオーナーとの業務委託契約になります。従って、原則的には残業代は発生しないと言えるでしょう。

2.カット練習は残業??

2.1 残業が適用されるケース

美容業界では基本的に個人のスキルが非常に重要になります。そのため、新人・アシスタントから上級のスタイリストやエステティシャン、ネイリストまで練習は非常に重要です。また、実際、そのような練習が終業後に行われています。

このような練習、ヘアサロンで言えばカット練習は、代々受け継がれていくものです。つまり、キャリアのあるスタイリストはかつて新人・アシスタントだった先輩から教えられ、練習してスキルを磨いてお客さんのカットを担当できるようになり、また、将来は新人・アシスタントを教えることになるでしょう。

この流れ自体は否定すべきものだとは思えません。しかし、労働法上ではどうでしょう。

まず、労働基準法や裁判例上、使用者の指揮監督下にある時間外研修は労働時間とみなされます。新人・アシスタントがお客さんのカットを担当できるように練習するのは使用者から明示的に命じられているにせよ、そうでないにせよ、単なる個人スキルの向上と言うよりはお店の営業上必要だからです。

従って、新人・アシスタントのこのようなカット練習やそのためのベテランの指導は、時間外労働と考えるべきであり、使用者はそれぞれに残業代を支給しなければなりません。

2.2 残業が適用されないケース

一方、キャリアのあるスタイリストが自ら進んで練習する場合はどうでしょう。それはお店のためにもなるでしょうが、スタイリストの自己目的の場合もあります。例えば、独立に備えて練習している場合もあるわけです。

このように使用者から命じられていない(または営業上そのような必要性のない)カット練習はいわば自由時間を使っているだけであり、残業代支払いの対象にならないと考えるのが妥当でしょう。

ただ、使用者からスキル向上を命じられて練習する場合は、新人・アシスタントのカット練習同様に時間外労働と考えるべきであり、使用者は残業代を支給しなければなりません。

3.残業についての考え

3.1 事業主側の考え

美容業界の場合、サラリーマン的労働と言うよりは職人的な労働といった面があります。この点では、スキルの伝承や新しいスキルの獲得・鍛錬は個人の自己目的の向上という側面が強いのも事実です。

カット練習でも新人・アシスタントがやる場合は残業代を支給し、ベテランの場合は支給しないというのは事業主からすると不合理とも感じられるでしょう。

むしろ「練習させてやっているんだ、光熱費とか指導料とか金を払ってほしい」とさえ感じられると思います。

また、カット練習以外でも、新人・アシスタントはカット担当として営業戦力にはなっておらず、ベテランと顧客とのやり取りから会話術を盗むとか、終業後の片づけとかすべてが修行だろうと考え方もあるでしょう。特に新人・アシスタントが多い場合、全員にまともに残業代を払っていたらサロンが持たないという側面もあります。

3.2 従業者側の考え

しかし、労働法上、すべてが修行だという論理は認められません。労働者の時間を拘束している以上、金銭を支払われるべきだというのが自然な流れになってきています。

かつてはテレビ業界でもADは将来、ディレクターになって自分の番組をつくるんだという強い目的意識のもと、一週間でも局に泊まり込んで働くのが普通でした。しかし、今日、そのような勤務形態は認められません。

美容業界でも、好きでやっている仕事なんだし、将来の独立や自立のために修行しているという考え方は薄れてきています。仮にそのような動機であっても、労働者として普通のサラリーマン同様に労働法で保護されなければなりません。このため、きちんと残業代が支払われるべきなのです。

4.まとめ

サロンオーナーとしては、従来の考え方をひきずって、これまで通りやっていけばよいと考えている方も多いと思います。しかし、新しい働き方が求められている時代、そのような考え方では訴えられてしまう恐れもあります。

まず、きちんと36(サブロク)協定を結んで、残業を命じる根拠をしっかりとつくり、その上で何が残業で何が残業でないかを明確にして、労働者の権利を尊重するような経営が求められています。

従業者も、これまでそうしたやり方で進んできたから従うべきなのだとは思わず、きちんと自己の権利を主張することが求められていると言えます。

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